ピロリ菌

ピロリ菌とは

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、感染すると胃粘膜に住み着いて慢性的な炎症を起こす細菌で、放置していると慢性胃炎、萎縮性胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がんなどを引き起こすリスクを上昇させます。胃の中には強力な胃酸や消化酵素が存在しますが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素で周囲の尿素を分解し、アルカリ性のアンモニアを作ることで周囲を中和して生息が可能な環境にしています。こうしたアンモニアなどの毒素が胃粘膜を傷付け、慢性的な炎症を起こすと考えられています。炎症が長期間続くと胃粘膜の細胞に遺伝子異常が起こりやすくなり、それが蓄積することで細胞のがん化が起こって増殖し、がんを発症するとされています。

感染経路

明確な感染経路はわかっていませんが、ピロリ菌は口から体内に入って感染することはわかっています。上下水道が整備されていない地域では現在も感染率が高いのですが、先進国では感染率が下がってきています。日本では高齢者を中心に現在も感染者が比較的多い状態が続いています。
ピロリ菌感染は免疫力や胃酸がまだ弱い幼少期に起こると考えられていて、感染すると除菌治療の成功や胃粘膜の状態が相当悪化しない限りいなくなることはありません。ただし、成人になってから感染することはなく、除菌に成功した場合も再感染することはほとんどないと考えられています。
基本的に汚染された井戸水などを介して感染するとされていますが、幼少期の口移しなどでも感染する可能性があると指摘されています。こうしたことから、除菌治療をすることは次世代への感染予防にもつながることが期待できます。

ピロリ菌と胃がんについて

ピロリ菌と胃がんピロリ菌の持続感染は胃がんリスクに大きく関与していると考えられています。ピロリ菌に感染すると慢性胃炎や胃潰瘍を発症しやすくなりますが、自覚症状なく弱い胃炎を繰り返すケースもよくあります。こうした場合でも持続的な炎症が続くことで胃粘膜の遺伝子に異常が起こる確率が増え、何度も遺伝子異常を繰り返すことで細胞ががん化し、増殖して胃がんを発症する可能性があります。

ピロリ菌の検査

胃内視鏡検査の際に組織を採取して行う検査と、内視鏡検査を行わずに行う検査に分けられます。ピロリ菌感染検査や除菌治療を保険適用で受ける場合には、内視鏡検査が必須となっています。


胃内視鏡検査で組織を採取して行うピロリ菌感染検査

迅速ウレアーゼ法

ピロリ菌はウレアーゼという酵素で周囲の尿素からアンモニアを作り出します。その仕組みを利用し、採取した胃の組織を尿素の含まれた試薬に浸し、アンモニアが作られて試薬がアルカリ性になるかどうかを調べることで感染の有無を確かめます。

鏡検法

採取した組織を染色し、顕微鏡で観察してピロリ菌の有無を確認する検査です。胃粘膜の萎縮などの評価を行うこともできます。

培養法

採取した組織を培養してピロリ菌の有無を確認します。ピロリ菌の存在を証明することができ、薬剤感受性検査などを行うこともできる精度の高い検査です。ただし、培養に1週間程度かかります。

胃内視鏡検査による組織採取が必要ないピロリ菌感染検査

尿素呼気試験(UBT : Urea Breath Test (ユービット))

ピロリ菌がアンモニアを作る性質を利用し、特別な尿素の含まれた錠剤を服用する前と後の呼気を集め、特殊な二酸化炭素があるかどうかを調べて感染の有無を確認する検査です。
錠剤の服用と呼気の採取だけで手軽に行うことができ、精度も高いため広く行われています。ただし、胃酸分泌抑制薬を服用していると正しい結果が得られない可能性がありますので、この検査を受ける場合にはお薬手帳などで普段服用している薬を全て確認する必要があります。

抗体測定法

ピロリ菌の抗体値を測定することで、感染の有無を調べる検査です。胃粘膜の萎縮が進んでピロリ菌も生息しにくくなった状態でも検査が可能であり、胃酸分泌抑制薬を服用していても測定できます。
ただし、ピロリ菌が除菌されても抗体は長く残るケースがありますので、除菌の成功を調べるためには向きません。

便中抗原測定法

胃の内容物は腸管を通って便として排泄されます。この検査では、便を採取してピロリ菌由来の特徴的な部位である抗原の有無を調べる検査です。直接、ピロリ菌組織の一部を検出できる検査であり、除菌成功の有無の判定に使われることが多くなっています。ただし、下痢のゆるい便では抗原が薄まって検出が難しくなることがあります。

ピロリ菌除菌治療の流れ

Step1.ピロリ菌検査

胃内視鏡検査を行って、慢性胃炎か胃・十二指腸潰瘍と診断された場合、ピロリ菌検査は保険適用されます。尿素呼気試験や抗体測定法でピロリ菌感染の有無を診断します。

Step2.検査結果の確認

陽性の場合には、除菌治療をおすすめします。保険適用でピロリ菌検査を受けて陽性となった場合は、除菌治療も保険適用されます。なお、ピロリ菌感染検査が陰性の場合には除菌治療を行うことはありません。

Step3.除菌治療1回目

ピロリ菌除菌治療は、3種類の薬を朝夕2回、7日間服用するという内容です。2種類は抗生物質で、残りの1種類は抗生物質の効果を高めるための胃酸分泌抑制薬です。
除菌治療の薬によって起こる可能性のある副作用で頻度が高いのは軟便や下痢です。他に、味覚異常、口内炎、お腹のガスの増加、便秘などを起こすことがあります。内服をはじめてから体調変化が起こった場合は速やかにご連絡ください。

Step4.除菌治療の結果確認

除菌治療は100%成功するというものではなく、失敗する場合もあります。除菌の成功判定は服薬から一定期間経過しないと正確な結果を得られないため、内服を終了してから1か月以上経過してから判定検査を行います。尿素呼気試験か便中抗原測定法で判定します。なお、初回の治療で除菌が成功する確率は80%程度とされています。
除菌に成功した場合はそこで治療は終了します。除菌に失敗した場合は、抗生物質を1種類変更して2回目の除菌治療が可能です。

Step5.除菌治療2回目

初回の除菌治療を受けた後も10~20%の方はピロリ菌が残存するとされています。判定検査で陽性になった場合、ご希望があれば2回目の除菌治療が可能です。2回目の除菌治療では抗生物質を1種類変更し、あとは1回目と同様に、3種類の薬を朝夕2回、7日間服用します。

Step6.除菌治療の結果確認

除菌判定の検査も1回目と同様に1か月以上経過してから行います。2回目の除菌治療では90%の方が除菌に成功するとされています。2回目の除菌に失敗した場合、3回目の除菌治療も可能ですが、保険適用されるのは2回目までとなっており、3回目からは自費診療になります。


文責:新家 卓郎 院長 【消化器内視鏡専門医・消化器病専門医・肝臓専門医、肝臓暫定指導医・総合内科専門医】

TOPへ